靴底が世界を踏むならば
歩いていたら、いつの間にか靴底にピンバッチが刺さっていた。
カシャカシャいうので、靴底を見てみたらそこに鷹がいた。
可愛くデフォルメされた鷹のピンバッチ。それは何か、僕と世界の間に滑り込んできた使者のように見えた。僕はそれを手に取ろうとして、しかし躊躇った。彼が居なくなれば僕はまた世界に吸収されてしまうだろう。何事もなかったように。
それでいいのか?
答えは否だ。
日常に舞い込んだ一羽の鷹。
その爪で日常と非日常を隔てる膜を切り裂いてくれ。
その翼で見たことのない景色の向こう側まで連れて行ってくれ。
その眼で本当に倒すべき敵が自分の中にいることを確信させてくれ。
その嘴で届かない言葉の行き先を指し示してくれ。
ああ、混雑する駅のホームで、何者でもない者たちのなかで、僕は何者になれるのか。
鷹よ。教えてくれ。
僕の靴底で羽根を休めたのは、偶然じゃないのだろう?
猛禽になれなかった僕は、何処でならそうなれるんだい?
その時だった。
鷹のピンバッチから、湧き出すように光がーーーー
ドンッ
「あっすみません」
チッ
「……」
ハッ!
なに偶然踏んだ鷹のピンバッチから物語始めようとしてんねん!
怖っ!
でも結構やっちゃうんですよね僕。